頑張らんでいいけん
普通でいいけん
そう言ってくれた。
私はだいぶ慣れてきた早起きの朝。
今朝は頑張って起きてくれて、久しぶりに一緒に家を出た。
まだ朝日も登っていないけど夜ではないなと分かる道を歩きながら、徐に、呟くようにそう言った。
ー 普通でいいけん
この「普通」が意味するところは、聞かなくても何故かすんなりと分かる気がした。
そっか、普通でいいんだよね。
考え過ぎなくていい。
評価なんて気にしなくていい。
普通でいい。
金曜日の夜に退勤した瞬間から、月曜朝の出勤が嫌過ぎて時間が過ぎるごとに表情が暗くなっていく私を、横でずっと見てくれていた。
仕事が佳境に入ってやっともうすぐひと段落するって時にごめん。
でも、いつも1番の味方でいてくれるんだと分かる。
何も考えなくていい。
ただ会社に行って、意識もせずに仕事をするだけ。
そうやって時間を過ごしているうちに、また週末になるから。
それでいいかなんて分からない。
でも今はそうすることで生きていくしかないし、今の正解はそれだと分かる。
「メンタルも成長痛を起こすでしょう」って歌詞があったよね。
これも成長痛だと思うことにしようか。
でも、生きている。
こんな時でも、わたしは世界に許されていてとても幸せだという自信は変わらずここにある。
自分が築いてきた土台は揺らがない。
状況を受け入れ、ここからどうするかを考えている。
そのことにとても安心している。
ー 普通でいいけん
「普通」の意味を考えなくなることは、私にとってどんな意味を持つだろう。
もしこれが何かを目指したりする熱量を見失った盛大な怠惰だとしても、今の私はその怠惰を愛する。
普通でいい。
そうやって生きることで見つかる熱量もあるだろう。
こんな私を生きてくれてありがとう。
そして、私の隣にいてくれてありがとう。
大丈夫だと言ってくれてありがとう。
もうずっとそこにいるかのような安心感で、あなたはそこにいてくれる。
月曜日の雑踏、喧騒。
4つ先の駅に着くのはあっという間で、その寂しさを察したかのように、繋いでいた右手を軽く叩く左手は優しい。
今週も始まって、私はまた自分の生活に戻っていく。
こんな特別が普通なら、私はこの普通をとてつもなく愛しいと思う。